高島軍は信継を先頭に

「やあっ!!」

 

「がああ」

 

高島軍は信継を先頭に、沖田軍を殲滅していく。

 

駄目押しで、両脇の山からも同盟軍が沖田を四方から囲むように追いつめんと進軍する。

 

沖田軍を残し、沖田の同盟国は既に撤退へと動きを見せ始めた。

 

 

「殿は…全滅する気か…!」

 

「撤退は…撤退の指示はまだか…!!」

 

沖田軍の士気は下がり、逃げ腰になる兵も出て来た。

 

信継は定期的に近づく伝令兵に伝える。

 

「沖田龍虎の首を捕ってケリをつける!

 

和島と秋羽は追うな。

 

戦う意思のない相手は、武器を奪って見逃せ」

 

「はい!」

 

「全軍に周知!」

 

「はっ!」

 

伝令兵は頷くとさっと離れて行った。

 

槍を振り回す信継の元に、牙蔵が来る。

 

「…!

 

…牙蔵!」

 

信継が牙蔵に顔を向けると、牙蔵は低く淡々と告げた。

 

「…桜が攫われた」

 

「…!?

何っ…!?」

 

驚いた信継が手綱を強くひくと、真白がいなないてその場で立ち止まる。

 

信継は牙蔵を睨むように見る。

 

「いつだ?誰に?」

 

 

「高島信継!大将首貰った!」

 

「うぐっ…」

 

後ろを一瞥した信継が槍を振るうと敵兵は崩れ落ちた。

 

「牙蔵!!」

 

矢継ぎ早の質問に、牙蔵がため息交じりに言う。

 

「詳しくは後。

 

すぐ見つけ出して奪い返す。

 

ただ…たぶん桜はーー」

 

その時、どよっと戦場にどよめきが走った。

 

「ーー…」

 

パッと前を向いた牙蔵と信継は目を見開く。

 

「…桜っ…!?」

 

沖田の陣営から、大将の龍虎が出て来たのだ。

その馬に乗せられているのは、まぎれもなく詩だった。

 

 

 

「離してください…!」

 

上半身を両腕ごとぐるぐる巻きに縄で縛られ、馬に横乗りにさせられた詩は、龍虎の腕にグッと抱かれ、抵抗していた。

 

「ふ…くねくねと…白い芋虫みたいだな…それ以上抵抗すれば、その口を塞ぐぞ」

 

「…っ」

 

龍虎は詩にグッと顔を近づけ、ニヤリと笑った。

 

「見ろ。

信継の顔が見ものだ」

 

「…あっ」

 

顎を持たれ、グイっと顔を戦場に向かせられ、詩は初めて見た。

 

粉雪の舞う中、広大な荒野に一面の人たち。

人、人、人の群れ。

 

矢が刺さったまま、地面に倒れている人。

切られて倒れている人の上を馬が踏みつける。

地面が黒く染まる程の血。

何とも言えない匂い。

 

あちこちで聞こえる断末魔や掛け声や、うめき声。

金属音。

 

地面を踏みならす馬のひづめの音。

太鼓の音。

法螺貝の音ーー

 

何人もの人が、詩をーー沖田の殿の龍虎をーー見ていた。

 

「…」

 

自然とカラダが震えた。

寒いから、だけではない。

カタカタと震えるカラダに、後ろから龍虎がふっと笑った。

 

「…震えているのか。

所詮女子…可愛いものだ」

 

「…」

 

そんな中、見渡す戦場に、抜きんでて、ひときわ目立つ男。

 

ーー…っ…信継様…

 

詩と信継の目は、その時確かに合っていた。

 

驚きに目を見開き、詩をじっと見る信継。

 

詩の目は潤む。

 

「…お前は可愛いな。

 

沖田に連れ帰ったら、存分に愛でてやろう」

 

「…っ」

 

耳に忍び込む龍虎の声に、ぶるっとカラダが震える。

 

「はは!見てみろ。皆唖然とこっちを見ておるわ」

 

その中に、驚きに目を見張る仁八の姿があった。

 

「…あれは…桜?

なぜ…」

 

 

高島軍の陣営の外でも、信八が側近につぶやく。

 

「なんだ?何があった?」

 

「は、どうやら龍虎が女子と出てきたようです」

 

「女子じゃと?」

 

信八は目を凝らして戦場を見るが、舞い散る粉雪と、あまりに遠すぎることもあって、よく見えなかったのだった。