女はそれすら意に介

女はそれすら意に介さないと言わんばかりに口角を上げ、真っ赤な紅を塗った唇を白岩の耳元へ近付け、囁く。 「……!」 ぞわりと背筋に悪寒が走り、同時に昔の記憶が頭を過った。 白岩は瞬時に飛び退くなり抜刀し、女の首筋に突き付ける。 「……穢らわしい。このまま首を落とされとうのうば、さっさと私の前から失せろ…!」 落ち着きかけていた鼓動が再び音を立て始めた。 呼吸が乱れ、苦しさが増す。 「ヒッ…!!い、命だけは…!堪忍や!!」 白岩の冷酷な視線と、冷たい鉄の感覚を首に感じるなり女は目を見開いて、下駄を片方残して駆けていった。 「ハハ…ッ、何じゃあれ…」 嘲笑を浮かべると刀を納め、女が残していったそれを掴み、駆けていった方向へと放り投げる。 からんという音が小さく地面に響いた。 「ハハ…」 乾いた笑い声が虚しく風に掻き消される。 烏が鳴き、子ども達が風車を片手に家へ向かって笑いながら駆けていく。 そんな姿を白岩は何処か羨ましげに、ジッと見ていた。香港botox價錢「ええわァその目…。ねェ…、お兄さん。行くところ無いんやったらウチ…来ぉへん?旦那は居らんから住んでもろぅて構へんし…」握り締めた手は僅かに震えている。 その脳裏には先程の子供の無邪気な笑顔が焼き付いていた。 そして思わずこう呟く。 「……私もあの童のように遊んでみたかった」 白岩は最下級身分である、として 生まれた。勿論、苗字などある訳もないため適当に名乗っているだけである。 物心ついた時には既に働くことを強要させられ、いつしかそれが当たり前となっていた。 故に同じ年頃の子供たちと遊んだり、草原を駆け回ったりしたことすら無いのである。 ただ、その姿を遠くから見つめていただけだった。 無論、寺子屋にも通ったことなどあるはずもなく、学もない。昔は自身の名前すら書けなかった。 自分の身を理不尽な折檻から守るために、必死で覚えた剣術だけが彼の命を支えていた。 沖田には人を斬ったことはないと言ったが、それは大きな嘘である。 初めに人を殺めたのは、齢十四の頃。先程の女によく似た女を斬った。 彼の見目に惹かれた裕福な後家に拾われたものの、それは浅ましく、色欲に溺れた哀れな女だった。 加えて酒乱ゆえ、白岩は生傷が絶えなかったのである。 やがて共に死んでくれと鉈を振るってきたため、咄嗟に床の間にあった刀を抜いて抵抗し、殺してしまったのだ。 女は誇りの高さから、身分の低い白岩をやたらと人の目から隠した。その為に、彼が殺したことは闇へと葬られたのである。 次は齢十五。母、そして弟と妹を手にかけたのだ。 理由は、ただ楽にしてやりたかった。それだけである。 美しい母は自身の手で殺めた二人の幼子の表情は非常に穏やかで、まるで眠っているようであった。 この辛い現世から解き放たれたからであろうか。 それから自分も後を追おうとしたが、それは母の手によって止められた。 母を殺すことへの戸惑いのためか、刺し傷は急所から僅かに外れていた。 まだ息のあった母は最後の力を振り絞って、素手で刃を掴みそして首を横に小さく振り、微笑みながら血を吐いて死んだという。 掘っ立て小屋のような、粗末で小さな家の中には血の臭いが立ち込め、凄惨な光景がそこにはあった。 泣きじゃくりながら刀と鞘を持って裸足で飛び出していく。 暑い暑い夏の夜のことであった―― 駆けていく子ども達を見て、もしも自分の弟や妹が生きていればこれくらいだろうかと目を細める。 「……何故、私だけ生きているのだろうか」 このように返答のない問いかけを一体何度繰り返したことか知れない。 あの日から幾人ものの命を奪ってきたが、弟と妹のときは全く違った。