そういうことで御座い

そういうことで御座いましたか、承知致しました」 「杜陽は内容を聞き出す手筈を。私はこれより忙しくなり帰宅すら困難になる、よいな」  やると決めたらやる。王匡は最低限義理を果たして使者に会うだけは会った、本題に入れなかったのは徐栄軍団の責任だと言えるように言質も与えてある。どうなるか心配はあったものの、まずは我が身を立てておかねばならなかった。  その日の夜のうちに袁紹の元から派遣された使いが懐城にやってきた。ゆったりとした文官服を着た四十路あたりの男、逢紀、字を元図といい、元は何進大将軍の属人だったが、袁紹が洛陽を離脱するに際して付き従っている。 「それでは職務に励んで頂きますよう。私は一足先にお暇させて貰います」  下僕に自宅まで連れて行かせる。出て行ったのを確認してから主簿へ顔を向けた。 「楊樊、盟主殿へ早馬を出すんだ。どうしたら良いかの指示を乞うぞ」 「「太守殿、我が主である車騎殿に派されました逢紀と申します。宜し 避孕藥後遺症 くご承知おきの程を」  袁紹だが、渤海太守のままに盟主に推された際に車騎将軍を自称していた。董卓がそれを認めるはずもないので、皇帝が居る方角へ向けて奉じ、いつか助け出したら追認してくれという儀式を行っている。何としようと自称なのは動かずだが、連合軍同士で認め合えばそれが馴染んで来るもの。 「杜陽」 「はっ。従事の杜陽と申します。董卓の使者である胡母斑殿は太守殿の娘婿、現在は屋敷で休んでおられます」  関係性を知らないはずもないが、知らぬと後で言われぬためにもここで触れておく。友軍ではあるが生き馬の目を抜くかのような時代だ、それぞれが主を守るために全力を出した。 「して使者殿はなんと」 「それでありますが、太守殿は挨拶だけを受けて一切の話をしておりません。そのところどうぞご高配願います」 「承知致しました。ではまだ使者殿の目的は聞いておられないのでしょうか」  それならそれで変わり得るので考えの幅が違ってくる。外堀を埋めながら杜陽は話を進める。 「屋敷にてそれとなく耳にしてきております。相国は太守殿との和睦を求められておられるようです。ここ以外へも使者が出ているとの話でした」  逢紀がピクリとした。和睦の使者なのはわかるが、それは連合軍とではなく個別にということだからだ。即ち袁紹とは和睦の意志がない、だから連合軍の盟主へは使者を出していない。今の時点ではそういうことだと受け止めることが出来た。 そして杜陽はこれを一つの武器として使う、王匡の連合軍内での立ち位置を少しでもあげられるように。どちらに与しても良いのだぞとの無言での脅しでもある。 「王匡殿へお尋ねいたします。連合軍を抜け董卓につかれるお気があられるのでしょうか」  真っすぐにこう言われては誤魔化すことも出来ない。杜陽を見ても楊樊を見ても何とも言わない、そこは王匡の判断に従うだけだから。 「あるはずなからろう。我等は董卓が漢を蔑ろにし、横暴を行うからそれを正そうと立ち上がったのだ。俺を愚弄するつもりか!」  椅子から立ち上がり発した。怒気を孕んだ一言に杜陽らは少しばかり首をすぼめる。そこまで強く思っていたとは考えていなかったのだ。 「これはしたり、私の言葉が悪く大変申し訳ございませんでした。ここに心より謝罪致します」  一旦区切って不覚腰を折って頭を下げる。面目はたった、ならば別にそれ以上は何も言わずに椅子にと腰をおろす。 「でしたら簡単なお話でありましょう。王匡殿は真の国士、それを妨げる者は何人であってもこれを排除すべきでございます」  これは雲行きがよくない、楊樊は何とか話題を逸らそうとして言葉を挟む。 「時に逢紀殿、河内には使者が来ましたが本営には?」 「さていかがでありましょうか、懐城よりの早馬がきて即座に本営を発ったので、入れ違いの可能性は御座いますが」