があったためか

があったためか、永倉と更に和解することを望んだ近藤が永倉を連れて行くと言ったのである。

 

また、沖田が江戸の頃を懐かしく思い続けていることを近藤も知っていた。江戸へ行ってしまえば、もう戻りたく無くなるのではないかとの危惧もあったという。

 

そして沖田と永倉の両方を同時に連れて行くことは、残戦力としては不都合のため、永倉へ白羽の矢が立ったのだ。

 

 

「どうして……」

 

「どうしてもだ。VISANNE Watsons 早く見送りに行って来い。当分会えなくなるんだぞ」

 

 

沖田は土方を睨むと、近藤の元へ走っていく。

 

「…山南さん、そこに居るんだろ。出て来て良いぜ」

 

土方は植え込みに向かって声を掛けた。すると、ガサりと音を立てながら、そこから山南が困ったような表情で出て来る。

 

 

「…バレていましたか」

 

「ったく…新撰組副長ともあろう人が草まみれになってるんじゃねえよ…」

 

土方は苦笑いをすると、山南の背についている葉を払い除けた。

 

 

「…ハハ、面目ありません。所で、どうして総司に嘘を言ったのです?総司だって、本当のことを話せば納得すると思いますが…。わざわざ憎まれるような事をしなくても」

 

「納得しねえよ。アイツはな、のことを認めて貰いてえんだよ。…それを、江戸に行けば故郷が恋しくなっちまって、組を離脱するかも知れねえ…なんて思われてると知ったらどう思う」

 

それを聞いた山南は顔に影を落とす。

 

「…そう言うこった」

 

 

土方は樹から背を離すと、前川邸の中へ入っていった。

 

 

「…土方君は周りをよく見ていますね。それに比べて、私は…」

 

 

山南の呟きは誰に聞かれることもなく、空へ溶けていく。一方で、桜花は武田に捕まり前川邸の蔵の横にいた。

二人きりにならないようにと沖田に言われていたが、どうしても話をしたいと頼み込まれたため油断してしまったのである。

早く皆のいる所へ戻りたかったが、武田は桜花の両手をしっかりと握っていた。その目には涙すら浮かべている。

 

「ああッ、麗しい貴方と長い期間離れ離れになるなんてッ!きっと鈴木君もその心中では涙しているのでしょう…」

 

「いえ、そのようなことは── 」

 

「ええ、そうでしょうそうでしょう!そうに決まってますよねッ!」

 

 

桜花の返答を最後まで聞かず、言葉を被せると武田はその白い手に頬擦りをした。

 

桜花は顔を引き攣らせると、手を引っ込めようとするが強い力で握られており、それはままならない。

すごい執念だった。

 

 

「痛ッ、痛いです」

 

「何と!この私と離れるのは心が痛いと、そう申しているのですか!武田観柳斎…感激です!」

 

 

すっかり自分の世界に入ってしまった武田は桜花の言葉など耳に入っていない。いや、都合の悪いことは聞かないようにしていた。

 

 

「…そうだ、貴方も江戸へ来れば良いのですよ。この私が局長へ頼めばきっと了承されます!」

 

普段から近藤の太鼓持ちをしているため、近藤に気に入られている自覚がある。

その為、頼み込めばそれを聞き届けて貰えると考えていた。

 

助けを求めるように、周りを見渡す。すると、通り掛かった馬越と目が合った。馬越はふい、と目を逸らし駆けていってしまう。

 

 

「行きませんって…。やめて下さい!」

 

桜花は渾身の力を込めて武田を払い除けた。その際に武田の手に爪が当たり、一筋の薄い線を作る。

 

武田はそれを見ると、べろりと舐めた。そして冷ややかな視線を桜花へ向ける。

 

 

「貴方…身分は?立派な刀を持っているようだが…下働きをしている以上、武士では無いでしょうね」

 

「それが…どうなんですか」

 

「…記憶が無いという話だから、教えて差し上げる。町民が武士に無礼を働いたら、無礼討ちをしても良いんですよ」