沖田は視線を反らし、困ったように微笑んだ。
土方は茶を啜りながら何かを察する。
「問題ねえよ、総司。期貨 あいつは男だ。第一、女が剣術なんて習うもんか。薩摩の女や千葉の鬼小町じゃあるめェし」
そのように、沖田の杞憂を笑い飛ばした。
何を隠そうも沖田は大の女嫌いである。正確に言えば大の苦手だが。
何故ならばまだ江戸にいた頃、女に関する心的外傷を負ったからであった。
「そうですよね。そもそも女子なら色男の土方さんが放っておく訳がない」
沖田はからかうような口調でそう言う。
「うるせえよ。残念だが俺ァ男にゃ興味無いんでな」
土方は束ねられた美しい黒髪をサラリと流した。
「それよりも、だ。問題はアイツらじゃねえか…?」
その言葉に近藤と沖田は渋い表情を浮かべる。
やからな!」
右隣には三男、勇之助がいた。
為三郎は齢十四、勇之助は齢九である。
二人とも早速桜花に懐き、我こそはと案内を買って出たのだ。
元々子供が好きな桜花は微笑ましそうにそれを聞いている。
一通り案内が終わると、三人は縁側に腰を掛けていた。
すると、突然影が出来る。見上げると其処に松原が立っていた。坊主頭に後光が差してまるで仏のようである。
「おッ、もう二人に懐かれとんのか。為坊、勇坊。この兄ちゃんと仲良うしたってな」
松原の言葉に二人は大きく頷いた。子どもにも優しく非番の日に遊んでくれる松原のことを二人は大好きだった。
「松ちゃん、暇やったらウチらと遊んでえな」
勇之助は満面の笑みを浮かべて松原に抱き付く。
「せやせや。二人は前川邸に移動し、ある一室の前に立つ。
「連れて来たで」
松原が一言かけて障子を開け放てば、そこには出しっぱなしの布団や、脱いだ着物が散乱している光景が目に入った。
「おう、待っていたぜ!新入りッ」
おまけに部屋の中からは汗や体臭が混じった異臭がする。
「ほら、遠慮しねェで入って来いよ」
お世辞にも清潔とは言えないため、出来ることならばあまり入りたくはないが、促されて恐る恐る踏み入れた。
部屋内には、布団、刀掛け、棚など必要最低限の物しか置いておらず、どうやら一室を数人で共有しているようである。
「うわ、美人!本当に男なのかよ」
「いいねェ。俺ァ、にゃあんまし興味ねえがあんたなら別に良いぜ!」
部屋にいた二人の男達は桜花を見るなり興味深そうに近寄ってきた。
透明感のある白い肌、長い、二重のぱっちりとした目に薄い唇、華奢な身体。まさに女のそれに二人は驚きを隠せていない。
「おい、平助。抜け駆けはいけねェよ。そういう時は年上の俺が先にだな…」
「なァに言ってんの、オッサン。こういうのは年若の平ちゃん優勢でしょ」
二人は桜花の目の前でぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。
桜花は事態が飲み込めずに目を白黒させる。
その時、やや乱暴に障子が開き斎藤が入ってきた。
「騒がしい。廊下まで筒抜けだ!副長からこの者とろになるのは禁止だとの言伝がある」
その言葉に男達は大袈裟に溜め息を吐く。
「当たり前だ。そもそもあんた達はこの者の意思をも聞かず好き勝手に言い過ぎだろう」
「残念やったな。ええ女やったら色街にごまんとおるやろ。そっちを当たりィ」
斎藤は冷ややかな目で、松原は面白そうに二人を見ていた。
「冗談だってぇ!だからそんな目で見ないでよ、